皆さん、こんにちは。
突然ですが、「江戸時代の思想家」と聞いて、誰を思い浮かべますか?
徳川幕府を支えた朱子学や、新しい学問を開いた人たちがたくさんいますが、
その中でもひときわユニークな思想を打ち立てたのが、伊藤仁斎です。
仁斎は、当時の主流だった朱子学に真っ向から異を唱え、孔子や孟子といった儒教の古典をもう一度読み直すことで、新しい儒教のあり方を探求しました。
彼の思想は、現代に生きる私たちにも通じる、人間味あふれる魅力に満ちています。
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伊藤仁斎ってどんな人?
伊藤仁斎は、1627年に京都の裕福な商人(材木商)の家に生まれました。
幼い頃から学問に励み、最初は当時の学問の中心であった朱子学を学びます。
しかし、朱子学の抽象的で観念的な考え方に次第に疑問を抱くようになり、やがて独自の思想を形成していきます。
京都の堀川に私塾「古義堂」を開き、多くの門人(3000人ほど)を育てました。
彼の学問は「堀川学派(あるいは古義学派)」と呼ばれ、後の思想家たちにも大きな影響を与えました。
仁斎思想の核心:人間味あふれる「仁」と「誠」
仁斎の思想を理解する上で、特に重要なキーワードが「仁」と「誠」です。
彼はこれらの言葉に、朱子学とは異なる、非常に人間的で具体的な意味を見出しました。
「仁」とは「愛」だ!
朱子学では、「仁」を含めた人間の徳を、宇宙の根本原理である「理」と結びつけて、非常に形而上学的に捉えていました。
簡潔に言えば、「この世界にはルールがある。そのルールは人間にも内在しているから、そのルールに沿って生きましょう(あるいは勉強してルールが何なのかを知りましょう)」というのが朱子学である。
※詳しくは以下の記事をご覧ください。
しかし仁斎は、朱子学の抽象的な考え方は日常生活に沿ったものではないと批判しました。
仁斎は人間にとって最も大事な徳は「仁」であると考えます。
仁とは、「愛(あい)」のことです。
仁斎にとっての「仁」は、親が子を慈しむように、誰もが生まれながらに持っている、温かい「人間相互の愛」のこと。
それは、知識や理屈で理解するものではなく、人が人として生きる上で自然に発揮される感情であり、行為そのものであると考えました。
※そもそも「仁」は「人が二」と書きます。人が2人相対するときに生まれる自然な感情というのが由来です。
彼は、孔子の教えの根本をこの「仁」(愛)に見出しました。
世界に存在するあらゆるもの同士が、お互いに愛し合い、助け合うことができれば、世界は幸福になる。
仁斎は自分の名前にも「仁」を入れるほど、「仁」という徳目を大事にしたのです。
「誠」とは「偽りのない真実の心」
仁斎は、「仁」の実現のために不可欠なものとして「誠」を重視しました。
「誠」とは、「一毫の虚仮(一毫の偽飾なき」
つまり、少しの嘘偽りもなく、飾りのない純粋な真実の心のことです。
人間関係において、この「誠」の心を持って接することが、「仁」を実践する上で最も重要だと考えました。
これは皆さんも日常生活においても実感できると思います。
例えば、嘘偽りの心で「あなたを愛している」と言われても、真実の愛とはいえません。
相手に対して心からの偽りのない態度で接すること、それが「誠」であり、この心がすべての徳目の根本にあります。
そして、「誠」が人々の心を結びつけ、社会をより良くしていく原動力になると説いたのです。
朱子学との違い:なぜ仁斎は「古義学」を唱えたのか?
仁斎は、自分が学んだ朱子学に対して、いくつかの点で批判を加えました。
これが、彼が「古義学」と呼ばれる独自の学派を打ち立てた理由です。
「理」ではなく「仁」を重視
朱子学では、宇宙の根本原理を「理」とし、すべての存在は「理」によって秩序づけられていると考えました。
そして、「理」に従って生きることこそが大事だと説きました。
特に江戸時代では「世の中には天と地があるように、人間関係にも上下がある」という朱子学の教えを利用し、身分制度を確固たるものに変えていきました。
一方、仁斎は、形式的に身分を守るのではなく、心の底から相手を敬えることが重要だと説きます。
その意味で「仁」や「誠」の精神こそが大事な徳目であり、形式的・抽象的な考えの朱子学を批判しました。
孔子・孟子の原点への回帰
仁斎は、朱子学が孔子や孟子の本来の教えから離れて、複雑な理論体系を作り上げてしまったと考えました。
そこで、彼は朱子学の解釈を排し、直接『論語』や『孟子』といった原典を読み込み、孔子や孟子の真意を探ろうとしました。
これが「古義学」と呼ばれる理由です。
特に『論語』を重視した彼は『論語』は「最上至上宇宙第一の書」とまで評価しています。
彼は、古典を当時の言葉や時代背景を考慮して読み解くことで、孔子や孟子が伝えたかった、より人間的で温かい「仁愛」の思想を再発見しました。
仁斎思想が後世に与えた影響
伊藤仁斎の思想は、江戸時代の学問に大きな波紋を投げかけました。
彼の提唱した古義学は、荻生徂徠の古文辞学など、後の様々な学派の成立にも影響を与えています。
また、仁斎が重視した人間性や感情を肯定する姿勢は、形式にとらわれず、人々の心情を大切にする日本の思想の流れにも通じるものがあります。
まとめ:現代にも通じる仁斎の教え
伊藤仁斎の思想は、約300年前に生まれましたが、その根底にある「人を愛し、誠実に生きる」というメッセージは、現代の私たちにも強く響くのではないでしょうか。
情報があふれ、人間関係が複雑化する現代において、仁斎が説いたような温かい「仁」と偽りのない「誠」の心は、より豊かな社会を築くために不可欠なものです。
彼の思想は、単なる歴史上の学問としてだけでなく、私たちの生き方を考える上で大切なヒントを与えてくれるでしょう。
もし興味を持ったら、ぜひ仁斎の著作に触れてみてください。きっと新しい発見があるはずです。
(参考文献)
・『江戸の学びと思想家たち』(辻本雅司)※辻はにてんしんにょう
・『童子問』(伊藤仁斎著)
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