「神は死んだ」
この言葉を聞いたことがありますか?
これは19世紀ドイツの哲学者、フリードリヒ・ニーチェの有名な言葉です。
彼が注目したのは、当時ヨーロッパで広まりつつあったニヒリズムという考え方でした。
ニヒリズムとは、簡単に言うと「今まで信じてきた価値観や、人生の意味が全部なくなっちゃって、結局、何をやっても無駄なんじゃないか?」と感じちゃう状態のことです。
ニーチェが生きていた時代、キリスト教の教え(神の言うことが絶対だ!という教え)がだんだん人々の心から離れていき、
多くの人が「一体、何のために生きているんだろう?」と、空虚感に悩まされていました。
ただ、ニーチェは、このニヒリズムをただのネガティブな現象だとは見ませんでした。
むしろ、それは人類がこれまで作ってきた価値観が「もう限界だよ!」と教えてくれていて、新しい価値観が生まれるためには、どうしても通らなきゃいけない重要な段階だと考えたんです。
以下、詳しく紹介します。
ストリートアカデミーとは?
ストリートアカデミーでは、大人の学びなおし、子どもの学習のために様々な講座をお手頃価格で受けられます。
「もっと歴史や哲学のことを知りたい」や「茶道や陶芸など新しい経験をしたい」という人たちにぴったりの講座がたくさんあります。
様々な体験をして、新しい自分になるための一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか?

価値の転換と再評価の必要性
改めて、ニヒリズムとは、それまで当たり前だと思っていた価値観や意味、人生の目的といったものがすべて失われ、「結局、何の意味もないじゃん」と感じてしまう状態のことです。
ニーチェは、このニヒリズムを乗り越えるためには、これまでの価値観を根本から見直し、価値の再評価をする必要があると主張しました。
たとえばキリスト教の教えには以下のようなものがあります。
- 強さ・力 → 悪(傲慢、横暴が悪だから)
- 弱さ・貧しさ → 善(謙虚、清貧、慈悲が善いから)
- 自己肯定・欲望 → 悪(傲慢、貪欲が悪だから)
- 自己否定・犠牲 → 善(自己犠牲、隣人愛が善いから)
一見すると、キリスト教の教えは、とても優しさに満ち溢れ、常に謙虚さを忘れずに生きようとする素晴らしい教えのようですが、
ニーチェは、これらの教えは、実は弱い立場の人が、強い人への妬みや恨み(ルサンチマン)から生み出したものであり、
人間が本来持っている「もっと強く生きたい!」という生命力を抑えつけてしまうものだと批判しました。
ニーチェが大事にしたのは、むしろ自分の内側にある生命力や「こうしたい!」という強い気持ち、つまり力への意志を肯定することでした。
そして、自分自身を積極的に高めていくことを求めました。
彼にとってニヒリズムは、今まで絶対だと思われていた価値観(=キリスト教の教え)が、実は人間が作ったものに過ぎない、ということを教えてくれるチャンスだったんです。
「神が死んだ」とは?
「神が死んだ」というニーチェの言葉は、文字通り神様が本当にいなくなった、という意味ではありません。
これは、キリスト教的な価値観や、それが社会で当たり前とされてきた「絶対的な真理」としての地位を失った、ということを示しています。
これまで人々が信じてきた「神」という存在が与えていた道徳や真理、生きる意味といったものが、その力を失い、もはや人々の行動や思考の基準にはならない状態になり、絶対的な価値観が崩壊しました。
これは、科学の発展や合理主義の台頭により、宗教的な教えが万人に共通の「真実」とは見なされなくなっていったことも理由としてあげられます。
そして、ニヒリズムが到来します。
すなわち、「神」という絶対的な拠り所がなくなったことで、人々は人生や世界の意味を見失い、「結局、何にも意味がないんじゃないか?」と感じるようになりました。
超人思想 ニヒリズムを超克せよ!
ニーチェが伝えたかったのは、ニヒリズムで「人生が無意味だ。」と宣告し、人々が何もしなくなることではありません。
むしろ、人間が価値を創造する時代が来たのだということを伝えたかったのです。
そこでニーチェが示したのが「超人(ユーバーメンシュ)」という考え方です。
超人とは、これまでの価値観に縛られず、自分の意思で新しい価値を作り出し、自分自身を常に超えていく(成長し続ける)ような人間のことです。
彼らは、ニヒリズムがもたらす虚無感に打ちひしがれることなく、むしろそれを乗り越えて、自分の人生を最大限に肯定する存在です。
超人は、何か特別な能力を持った人というわけではありません。
そうではなく、どんなに辛いことや苦しいことがあっても、それを受け入れて、自分の運命を心から愛する運命愛(アモール・ファティ)の精神を持ち、常に自分を成長させようとする強い精神を持った人のことを指します。
ニーチェは、人間が超人へと進化していくことこそが、ニヒリズムを本当に乗り越える道だと考えました。
ニーチェの哲学が現代に問いかけるもの
ニーチェが深く考えたニヒリズムの問題は、実は今の私たちにとってもすごく身近なことです。
SNSで情報があふれて、何が本当で、何が自分にとって意味があるのか分からなくなってしまうこと、ありませんか?
そんな私たちにとって、ニーチェの価値の再評価や自己超克の思想は、今の時代を生きる上でとても大切なヒントを与えてくれます。
ニーチェの哲学は、私たち一人ひとりが、自分の人生の意味を問い直し、自分の力で新しい価値を見つけたり、作り出したりしていくことの重要性を教えてくれます。
人生につまずいたら、ニーチェの思想を思い出して、人生の意味を創出してください。
参考文献
・『ニーチェ入門』(竹田青嗣 (著))
コメント